小説「挽歌」
原田康子の小説「挽歌」を再読する。
主人公玲子の恋人である桂木の奥さんは美貌の人である。
洋装のイメージだが もし着物を着たらこういう感じになるかもしれない。
「挽歌」を初めて読んだのは大昔のことだ。
その時はすっかり魅了されておそらく玲子に自分を重ねて
一緒になって桂木に恋心を抱いていたかもしれないし
釧路は憧れの地になったような気もする。
しかし今回読んでしばらく呆然とした。
何も共感できなかった。
玲子は酷すぎる。桂木もさほど魅力的な人物には見えない。
夢見る私はもういない。
この小説が発表されたのは1955年だが「武蔵野夫人」の発表は1950年である。
わずか5年でこんなに男女の関係が違うものに描かれている。
「武蔵野夫人」の道子は夫に翻弄された結果死を選んだ。
「挽歌」の主人公玲子は周りの人々を翻弄し傷つける。
挙句 桂木夫人を自殺に追いやる。
こんなに女は強くなったのだ。
そしてこの5年の間に日本はとても豊かになった。
朝鮮特需があり、釧路には黒いダイヤと言われる石炭の炭鉱があった。
だから玲子はタフタのアフタヌーンドレスを父親に誂えてもらったり
桂木の駆るジープでホテルに行ったりする。
1955年の大方の人にとってどんなにか新鮮で豊かで
ロマンチックな世界に見えたことだろう。
だから大ベストセラーになった。