紫の留袖

この紫の着物は三つ紋の留袖だった。
実に丁寧な細かい縫い目でほどくのが大変だった。
これを縫ったのはどんな人だったのだろうか
いろいろ想像しながらの作業だったが
こういう時いつも思い出すのが
路傍の石」の母親のことだ。
裁縫の名手であった彼女が純白の衣装を縫う時に
意地悪の同僚が赤い糸を投げてよこした。
その赤い糸で純白の着物を仕立て上げるくだりである。
話の筋もよく覚えていないのに
その場面はきものをほどく、縫う、というときによく思い出す。
この紫のきものも戦前の名手が縫ったものだと思う。


きものの模様は菊のなかまのようなロマンティックな花模様で
帯は菊尽くし。帯留めは翡翠です。